大学在学中から演技の道を志した松重豊が足を踏み入れたのは、熱気あふれる小劇場文化の中心地・下北沢だった。彼は佐藤B作が主宰する「東京ヴォードヴィルヴィレッジ」に所属し、舞台演劇の基礎を徹底的に叩き込まれる。同時に、生活を支えるために下北沢の有名な老舗中華料理店などで飲食店バイトに明け暮れる日々を送っていた。
当時、同じバイト先には後にロックバンド「THE BLUE HEARTS」のボーカルとして熱狂を生む甲本ヒロトがいた。貧しくも夢を追う若者たちが夜な夜な芸術や未来について語り合った下北沢の空間は、彼の精神的な原風景となっている。演劇への情熱を燃やしながらも、当時はまだ将来の保証など何一つない、焦燥感と隣り合わせの毎日だった。