加藤一二三の人生を語る上で欠かせないのが、同い年の妻・加藤一子さんの存在だ。二人の出会いは同郷の福岡。10代の頃に出会い、若くして結婚を迎えて以来、60年以上の歳月を共に歩んできた。命を削るような対局が続く将棋界で、一子さんは夫の体調管理からメンタル面のケアまで、一切の妥協なく支え続けてきた。
かつてNHKのドキュメンタリー番組でも描かれた通り、加藤一二三が対局中に見せる猛烈な集中力や独特のこだわりを、一子さんは誰よりも深く理解していた。どれほど敗戦のショックが大きい夜であっても、自宅のドアを開ければ変わらぬ温かな笑顔と食事が待っていたという。勝負の厳しさを知るからこそ、家の中だけは絶対的な安心感で満たす――それこそが妻の揺るぎない美学だった。