坂東太郎流域には、今も手打ち蕎麦にこだわる職人が数多く存在する。
群馬県みなかみ町の蕎麦職人、田中一郎さん(仮名、67歳)は40年以上この道一筋だ。彼の打つ蕎麦は地元で「幻の年越しそば」と呼ばれる。毎年11月から予約が殺到し、大晦日には200食以上を打つ。
水へのこだわり
「坂東太郎の伏流水を使う。これが全てだ」と田中さんは言う。利根川の伏流水は適度にミネラルを含み、蕎麦粉と絶妙に結びつく。水道水では決して出せない味わいだという。彼は毎朝、湧き水を汲みに行く。冬の早朝、氷点下の中での作業だが、これを怠ることはない。
二八と十割の使い分け
坂東太郎流域の蕎麦は、二八(蕎麦粉8:小麦粉2)が基本だ。しかし職人によっては十割も打つ。田中さんは両方を用意する。「若い人は食べやすい二八を好む。年配の方は香り高い十割を求める。どちらも正解だ」
彼の技術は息子に受け継がれつつある。しかし全てを教えるわけではない。「最後の仕上げは自分で掴むものだ。川の流れを見て学べと言っている」