昭和のカルチャーシーンを駆け抜けた美輪の名を、若い世代や世界中のファンに決定的に刻み込んだのが、スタジオジブリ作品での圧倒的な声の怪演だ。宮崎駿監督からの熱烈なオファーによって実現したこれらの役柄は、美輪のパブリックイメージをさらに重層的なものにした。
1997年公開の『もののけ姫』で演じた山犬の神・モロの君では、人間を厳しく拒絶しながらも養女サンを深く愛する、恐ろしくも神々しい母性を表現した。「黙れ小僧!」という象徴的な台詞は、世代を超えて今も語り継がれている。さらに2004年の『ハウルの動く城』では荒地の魔女を演じ、強欲と無邪気さが同居する複雑なキャラクターに唯一無二の生命を吹き込んだ。
NHKの特集番組や各種ドキュメンタリーでも明かされている通り、宮崎監督は美輪のなかに「男と女、神と魔、親と子」のすべてを内包する超然とした存在感を見出していた。スクリーンを通じて見せた強烈な「親としての情愛」の演技が、奇しくも観客の潜在意識に「美輪明宏=慈愛深き親」というイメージを強烈に刷り込む契機となった。