東京・銀座の歌舞伎座で繰り広げられた数々の名場面の中でも、舞踊『喜撰』で見せた軽妙洒脱な六歌仙・喜撰法師の姿は、いまや伝説として語り継がれている。飄々としたユーモアの中に、研ぎ澄まされた舞の技巧が光る名演。チョンと拍子木が鳴り響く中、花道で見せる愛嬌と気品に満ちた佇まいは、客席の隅々まで幸福感で満たした。
語る上で欠かせないのが、無二の盟友であった十八代目中村勘三郎との絆だ。互いに切磋琢磨し、時には激しく意見を戦わせながら、松竹株式会社と共に歌舞伎界の新たな地平を切り拓いていった二人。情熱の勘三郎と、理知の三津五郎。対照的な個性がぶつかり合い、共鳴した舞台は、まさに平成から現代へと続く伝統芸能の黄金期そのものであった。