日本文学史において国木田独歩が果たした役割は極めて大きい。装飾を排し、ありのままの風景や人間のありようを描いた自然主義文学の先駆作『武蔵野』は、今なお色褪せない名著として読み継がれている。そして不思議なことに、この「作為を捨てるリアリズム」の精神は、俳優・中島歩の芝居のアプローチとも奇妙な共鳴を見せる。
中島の演技には、過剰な感情表現で観客を誘導しようとするあざとさがない。ただそこに存在し、相手の言葉を受け止め、状況に身を委ねる。100年以上前に独歩がペン先で追求した「真実をありのままに写し取る」という態度は、形を変えてスクリーンの上の演技論として息づいている。