サルトルの思想は、1938年に発表された代表作の小説『嘔吐(La Nausée)』を通じて文学的にも結実しました。
主人公の歴史家アントワーヌ・ロカンタンは、海辺の街ブーヴィルで研究生活を送る中、海岸の小石や公園のマロニエの木の根を目にした瞬間、言葉にできない激しい吐き気に襲われます。彼が直面したのは、世界に存在するあらゆるモノや自分自身が、「何の必然性も理由もなく、ただそこに存在してしまっている」という余計さ(不条理)でした。意味の剥ぎ取られた生の生々しさに圧倒されるプロセスを描いたこのあらすじは、当時のヨーロッパ読書界に強烈な実存的衝撃を与えました。
しかし、サルトルは単に生の虚無感に浸るニヒリズムにはとどまりませんでした。第二次世界大戦の過酷な体験やレジスタンス運動を経て、彼はアンガージュマン(社会参加・政治関与)の重要性を熱烈に説くようになります。
人間は社会の傍観者でいることはできず、一人の選択が常に社会全体を巻き込み、時代を形作っています。だからこそ、知識人や作家、市民は自らの置かれた状況を引き受け、現実の政治や社会運動に積極的に関わり、自由を勝ち取るためにコミットしなければならないとサルトルは主張しました。