しかし、現在の強靭な肉体は一朝一夕に完成したものではありません。ジュニアからシニアへとステップアップする過渡期、女子選手が必ず直面する「第2次性徴に伴う体型変化」に、坂本花織も激しく直面しました。
彼女を長年育て上げた名将・中野園子コーチの指導は、妥協を許さない厳格さで知られています。かつての特番インタビューやドキュメンタリーで明かされたのは、1日数百グラム単位で行われる毎朝の体重測定と、厳しい食事制限の現実でした。好物のお菓子や炭水化物の摂取を厳密にコントロールされ、体重が基準を少しでも超えれば中野コーチから雷が落ちる日々。坂本自身も「当時は本当にお腹が空いて辛かった」と振り返っています。
中野陣営が目指したのは、単に体重計の数値を減らす飢餓的な減量ではありません。フィギュア選手としてリンク上で戦い続けるための「除脂肪筋肉量の最大化」でした。氷上練習に加え、陸上トレーニング(陸トレ)では以下のハードなメニューが徹底的に課されました。
- 高負荷ジャンプボックス・プライオメトリクス:爆発的な初速と跳躍高を引き出すため、自重を使った連続ジャンプトレーニング。
- 体幹(コア)スタビライゼーション:太ももから生まれたエネルギーを上半身へロスなく伝えるための、プランクやバランスボールを用いた腹横筋・脊柱起立筋の強化。
- スライディングボード&スケーティング模倣トレ:深く腰を落とした姿勢での左右運動を反復し、内転筋群と臀部を極限まで追い込む。
- 徹底した高タンパク・低脂質の栄養設計:筋肉を修復しつつ余分な体脂肪を落とすため、鶏肉、白身魚、大豆製品、野菜を中心とした精密な食事管理。
過酷な鍛錬を乗り越えたことで、彼女の体型変化は「ジャンプを崩す敵」から「大人のパワーを生み出す味方」へと姿を変えました。中野コーチの徹底した管理と、それに泣きながらも食らいついた坂本花織の精神力が、世界女王のフィジカルを築き上げたのです。