単なるラブコメディにとどまらず、働く若者たちの苦悩や夢への挑戦をリアルに描いた点も『ツルモク独身寮』の大きな魅力です。ギャグで大笑いさせた直後に、魂を揺さぶるシリアスな名場面が訪れる緩急の妙は、窪之内作品の真骨頂と言えます。
特に読者の記憶に深く刻まれているのが、田畑重男が見せる泥臭い男のプライドです。見た目や境遇を笑われながらも、「男が一度決めた道を曲げるな」とばかりに身体を張って仲間を守り、愛に突き進む姿には多くのファンが涙しました。また、正太がデザインコンクールに向けて不眠不休で図面を引き、自分の殻を破るシーンは、ものづくりに携わるすべての人のバイブルとなっています。
言葉の選び方も秀逸で、不器用ながらストレートに想いをぶつける告白シーンや、寮の屋上で仲間と語り合う夜の静けさなど、叙情的な名シーンの数々は連載から数十年を経ても色褪せません。