酒井順子の鋭い観察眼と洗練された文体は、どのような生い立ちとキャリアから育まれたのでしょうか。その経歴を振り返ると、極めて早熟な文才を持っていたことが分かります。
東京都杉並区の落ち着いた家庭環境で育った酒井氏は、小学校から高校まで立教女学院に通い、立教大学社会学部観光学科へ進学しました。驚くべきことに、高校在学中の16歳の頃から少女向け雑誌『Olive』などでコラムの執筆を開始し、当時の女子中高生の間でカルト的な人気を博していました。
大学卒業後は、大手広告代理店の博報堂に入社。マーケティングや企業コミュニケーションの最前線で3年間にわたり勤務し、バブル末期の消費社会と人間の欲望を肌で体感しました。退社後に専業エッセイストへと転身してからの著作に見られる「市場を冷静に見つめるマーケター的視点」は、この博報堂時代の経験が色濃く反映されています。
また、実家のご両親を看取り、実家という物理的・精神的拠点が解体されていく過程を克明に記録した『家族終了』(2017年)では、一個人の家族史を超えて、戦後日本の典型的な中流家庭の終焉を美しく描き切っています。