麻布昇月堂を語る上で欠かせないのが、名物「一枚流し麻の葉かの子」です。一般的な「かの子」は、餡の玉の周りに蜜煮した豆を貼り付けた一口サイズの生菓子を指しますが、同店のそれは全く異なるアプローチを取っています。平たい四角い折箱全体に、まるで一枚の絵画のように流し固められているのが最大の特徴です。
折箱の底に敷かれているのは、小豆のこし餡をベースにした口どけ滑らかな羊羹層。その上層には、丹念にふっくらと炊き上げられた小豆、大粒の白いんげん豆、鮮やかなうぐいす豆の3種が隙間なく敷き詰められています。それらを透明度の高い極上の錦玉(寒天)で一枚に流し固めることで、伝統文様である「麻の葉」を連想させる端正な幾何学的美しさを生み出しています。
また、この菓子が秀逸なのは「自ら切り分ける体験価値」を内包している点です。商品には専用の小さな竹ヘラが添えられており、食べる人が好みの大きさに切り分けて取り分けます。冷えた寒天にスッと竹ヘラが入る心地よい感触、断面から現れる豆の層の美しさ、そして切り分けた一切れを口に運ぶまでの所作そのものが、日常の中に上質な茶席のような特別感を演出します。甘さは極めて上品で、豆の一粒一粒が持つしっかりとした食感と、みずみずしい寒天の喉越しが完璧な調和を見せています。