1980年代後半から1990年代にかけて、女性ソロシンガーの頂点に君臨していた工藤静香にとって、中島みゆきとのコラボレーションはキャリアを決定づける重要な転換点でした。『FU-JI-TSU』『MUGO・ん…色っぽい』『黄砂に吹かれて』といった名曲群に続き、なぜ中島みゆきは『慟哭』という極めて生々しく痛切な失恋劇を彼女に歌わせたのか。そこには、表現者としての工藤静香に対する並々ならぬ信頼がありました。
当時の制作関係者や音楽誌のインタビュー記録によると、中島みゆきは工藤静香が持つ「ハスキーで少し翳りのある声質」と「感情を過剰に誇張せず、乾いた哀しみを漂わせるボーカルスタイル」を高く評価していました。一般的なアイドル歌謡の枠に収まらない、自立した女性のリアルな弱さやプライドを投影できる唯一無二の歌い手として見出されていたのです。
また、後藤次利による緻密なコード進行とベースラインがその土台を支えました。マイナーコードを基調としながらも、サビでは疾走感のあるエモーショナルなメロディへと昇華させる後藤の手腕は、中島みゆきの文学的なリリックと奇跡的な化学反応を起こします。ただ暗く沈み込むのではなく、胸をかきむしられるような切なさを抱えながら前を向かせるポップスとしての強度は、この黄金コンビだからこそ到達できた領域でした。