上野の街が文芸の中心地であった明治期、この店は多くの文士たちの憩いの場だった。特に軍医であり文豪でもあった森鴎外は、自らの代表作である小説『雁』の作中にこの店を実名で登場させている。主人公たちが散策の途中で立ち寄る情緒ある描写は、当時のリアルな空気感を現代に伝える貴重な文芸記録だ。
さらに天才作家・樋口一葉の日記や作品の背景にもその名が深く刻まれており、彼女の繊細な世界観と店舗の佇まいが静かに共鳴する。文豪たちが蕎麦を啜りながら語り合った空間は、160年以上の時を超えた今も、訪れる者に特別な歴史的旅情を感じさせてくれる。