インターネット検索やSNS上で頻繁に見られる最大の誤解が、「大川透の病気療養による降板説」です。この真偽をファクトチェックすると、明確な時系列の矛盾が浮かび上がります。
大川透が所属事務所のマウスプロモーションを通じて病気療養のための休業を発表したのは2017年12月であり、翌2018年11月に無事復帰を果たしています。一方、『鋼の錬金術師FA』の企画始動と放送開始は2009年4月でした。つまり、声優交代劇の実に8年以上も後の出来事であり、病気療養が交代理由ではないことは歴史的事実として明白です。
では、鋼の錬金術師の声優変更はなぜ行われたのか。その決定打となったのは、アニメーション制作を手がけたボンズおよび毎日放送・アニプレックスら製作委員会による「作品の完全な再構築(リブート)」という基本方針でした。
2003年版の旧アニメは、原作漫画の連載ペースに追いついたことから、中盤以降に原作者・荒川弘の承諾を得て完全オリジナルストーリーへと舵を切り、独自の世界観で鮮烈な結末を迎えました。これに対し、2009年版『FA』は「原作の完結に合わせて、漫画の全編を最後まで忠実に描き切る」という使命を帯びて企画されたものです。
当時の制作陣は、旧作の強烈な残像をリセットし、視聴者に「これは全く新しい『鋼の錬金術師』である」と認識させるため、物語の絶対的象徴であるエドワード役の朴璐美、アルフォンス役の釘宮理恵の2名を除く主要キャストのオーディションを敢行しました。ロイ・マスタングの声優交代理由は、まさにこの制作戦略上の刷新劇にあったのです。