工場に足を踏み入れると、規則正しい金属音とともに無数の丸編み機が稼働している。円筒状に並んだ何百本もの細い針が目にも留まらぬ速さで糸を拾い上げ、筒状の生地を編み出していく。だが、この工程を真に支配しているのは機械ではなく、職人の指先と耳だ。
気温や湿度がわずかに変化するだけで、天然繊維の伸縮率は変わる。職人たちはその日の天候を感じ取り、丸編み機の糸調子をミクロン単位でチューニングしていく。さらに、つま先の縫い合わせ(ロッソ縫製やリンキング)では、縫い目が肌に当たってゴロつかないよう、生地の編み目を手作業で1目ずつ針に合わせて縫合する技術も残る。この徹底した細部への執念が、極上の着用感を生み出す強固な土台となっている。