死線を彷徨う司令官のもう一つの素顔は、彼が戦地から家族へと送り続けた膨大な手紙の中に刻まれている。長男・太郎や末娘・たか子に宛てた手紙には、独特の愛らしいタッチで描かれた彩色豊かな絵が添えられていた。
台所の隙間風を心配し、娘の勉強机の配置を気にかけ、時には自分の無精髭を自虐的にスケッチしてみせる。そこには、アメリカ海兵隊を戦慄させた知略の将軍の面影はなく、ただひたすらに家庭を愛し、留守を案じる不器用な父親の姿がある。
「生きて再び会うことはない」と覚悟しながらも、子供たちの成長を遠くから見守り続けた栗林の筆跡。絶望的な戦況の合間を縫って描かれたこれらの絵手紙は、極限状態にあっても失われなかった人間性の尊厳を静かに、そして雄弁に物語っている。