有清園の苔庭を歩み進めると、堂々たる杉木立の奥に佇む柿葺(こけらぶき)の簡素な御堂が現れます。これが三千院の歴史において最も古く、核心部ともいえる重要文化財「往生極楽院(おうじょうごくらくいん)」です。平安時代末期の久安4年(1148年)、名僧・恵心僧都源信の遺徳を偲んで建立されたと伝えられています。
この小さな堂内に安置されているのが、2026年に国宝指定を受けた「木造阿弥陀如来及両脇侍坐像(阿弥陀三尊像)」です。堂内に入ると、誰もがそのスケール感に息を呑みます。外観からは想像もつかないほど堂内いっぱいに堂々たる黄金の三尊像が鎮座しており、阿弥陀如来の高さは約2.3メートルに達します。
なぜこれほど大きな仏像が、比較的小さな御堂に納められているのか。その理由は、天井の構造に隠されています。仏像の頭上を避けるように天井が船底型にくり抜かれた「船底天井」が採用されており、かつてそこには極楽浄土の光景や飛天、菩薩の姿が極彩色でびっしりと描かれていました。両脇の観世音菩薩と勢至菩薩は、亡者を極楽へ迎え入れるため、正座から少し腰を浮かせた「大和座り」という前傾姿勢をとっています。死の淵にある者を一刻も早く救おうとする阿弥陀三尊の切実な祈りが、あの密集した空間設計そのものに凝縮されているのです。