本来は共同体の秩序を維持するための慣習であったにもかかわらず、なぜ現代の私たちはそれに「恐怖」や「閉鎖的な陰惨さ」を感じるのだろうか。そのイメージ形成に決定的な影響を与えたのが、昭和の出版業界とエンターテインメント作品である。特にミステリー界の巨匠・横溝正史が執筆した一連の小説は、旧弊な村社会のドロドロとした血縁関係や因習を物語の核に据え、読者に強い衝撃を与えた。
その代表格が、名作『八つ墓村』である。大手出版社であるKADOKAWAによる大々的な文庫化とメディアミックス戦略によって爆発的なヒットを記録し、のちに制作された映画『八つ墓村』は全国にトラウマ級のインパクトを与えた。作中で描かれる閉鎖的な村の愛憎劇、血の怨念、そして深夜の訪問劇は、時代劇や歴史サスペンスの定番モチーフとして定着していく。本来の互助的・合意的な側面は削ぎ落とされ、「欲望と陰謀が渦巻く怪奇的な奇習」としてのパブリックイメージが定着していったのだ。