1990年当時、健康食品としての認知がまだ黎明期にあった青汁は、独特の強い青臭さと苦味から「体に良いことは分かっていても飲みづらい飲み物」の筆頭でした。そこに登場したのが、映画やテレビドラマで冷酷な悪役を演じ続けていた俳優・八名信夫氏(悪役商会)です。
当時の制作関係者や八名氏自身の回想録によると、あの伝説のシーンは緻密に計算された脚本によるものではありませんでした。当初の台本では、青汁を飲んだ後に「健康のために良質な一杯を」といった無難な宣伝文句を述べる段取りになっていたと記録されています。
しかし、撮影現場で用意されたのは、薄めたり味を調えたりしていない100%本物の生搾りケール青汁でした。リハーサルなしで一気にグラスを煽った八名氏は、口いっぱいに広がる強烈な青臭さとエグみに耐えかね、カットがかかる前に思わず顔を激しく歪めて「まずい!」と本音を漏らしてしまったのです。
現場が一瞬にして凍りつき、スタッフが撮り直しを覚悟したその瞬間、キューサイの創業者である長谷川社長(当時)が放った一言が歴史を変えました。「それだ!嘘をついて『うまい』と言うより、正直に『まずい』と言ったほうが消費者に誠実だ」。
八名氏が絞り出した本音の「まずい!」に、健康のために身体へ流し込む決意を込めた「もう一杯!」というフレーズが組み合わされ、日本の広告史に残る伝説のコピーが誕生しました。消費者の不信感を逆手に取り、絶対的な誠実さへと昇華させた「逆張りマーケティング」の原点がここにあります。