土屋嘉男の名を日本映画史に深く刻んだ作品といえば、間違いなく黒沢明監督の金字塔『七人の侍』だろう。打ちのめされた農民・利吉役を演じた際、土屋は役作りのために極限まで自分を追い込んだ。完璧主義で知られる黒沢組の過酷なロケは数ヶ月に及び、キャストやスタッフにかかるストレスは並大抵のものではなかった。
この極限状態の撮影現場から帰宅する土屋を優しく迎え、精神的な支えとなったのが妻だった。役に没頭するあまりプライベートでも役の影を引きずりがちな彼を、日常の温かさで包み込み、再び現場へと送り出す。黒沢明という妥協を許さない巨匠の要求に応え続けることができた裏には、家庭という絶対的な安らぎの場を守り続けた妻の細やかな配慮があったのである。