黒糖が「体に悪い」と囁かれる背景には、単なる都市伝説にとどまらない複数の科学的・社会的な経緯が存在します。ネット掲示板やSNSで議論が白熱した主な理由は、次の3点に集約されます。
第一の理由は、加熱調理過程で生成される「アクリルアミド」への懸念です。サトウキビの搾り汁をそのまま長時間煮詰めて濃縮する伝統製法において、原料に含まれるアミノ酸(アスパラギン)と還元糖が高温下でメイラード反応を起こし、副産物としてアクリルアミドが微量に生成されます。国際がん研究機関(IARC)がアクリルアミドを「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」に分類したことを受け、大手ニュースサイトが「黒糖にもアクリルアミドが含まれている」と報じたことで、消費者の間に不安が一気に拡散しました。
第二の理由は、「健康食品バイアス」による過剰摂取と血糖値スパイクのリスクです。白砂糖と比べて精製度が低くミネラルが豊富であるため、「黒糖ならいくら食べても太らない」「血糖値が上がりにくい」と誤認した愛用者が日常的に過剰摂取し、結果として肥満や脂肪肝、HbA1cの上昇を招くケースが臨床現場から多数報告されています。
第三の理由は、特定の対象者に対する明確な健康リスクです。非加熱・低精製であるため、ハチミツと同様に「乳児ボツリヌス症」の原因菌(ボツリヌス菌の芽胞)が混入しているリスクがあり、厚生労働省は1歳未満の乳幼児への黒糖摂取に注意を呼びかけています。また、豊富に含まれるカリウムは、腎機能障害を持つ患者にとって高カリウム血症を誘発する危険因子となります。