撮影現場の空気を張り詰めさせていたのは、名優・役所広司の圧倒的な存在感だった。雪深い山中での過酷なロケーション撮影が連日続く中、彼が演じる主人公の内面に宿る狂気は、日を追うごとに共演者やスタッフを圧倒していった。
氷点下を下回る過酷な夜間撮影の合間、テイク20を超えた瞬間だった。役所広司はモニターを覗き込むこともなく、ただ一言、「まだ人間の匂いが残っている」と呟いたという。その一言で現場の空気が凍りついた。自らの演技プランを自ら解体し、極限のリアリズムを追求するその姿勢に、若手キャスト陣は圧倒され、台本を持つ手が震えたと証言する。妥協を許さないプロフェッショナリズムが、本作の底知れぬ凄みを生み出した原動力となった。