光圀が自らの財力と情熱のすべてを注ぎ込んだのが、紀伝体の巨大な歴史書『大日本史』の編纂である。この事業は彼の生前には完成せず、没後も水戸藩によって脈々と引き継がれ、明治時代に至るまで約250年もの歳月を要して完成を見た。
彼が『大日本史』編纂に着手した真の目的は、単に過去の出来事を記録することではない。皇統の正統性を厳密に検証し、国のあるべき姿を明確にすることにあった。南北朝時代の評価や皇位継承の理屈を整理し、日本の国柄(国体)を理論化しようとした姿勢は、幕末の志士たちに甚大な影響を与えた。江戸幕府の親藩でありながら、天皇を尊ぶ「尊王論」の基盤を作り上げたこの事業は、皮肉にも徳川の治世を終わらせる精神的引き金となっていったのである。