教育関係機関や美文字講座の受講者を対象とした実態調査データによると、成人男女のおよそ38.4%が「しんにょうを先に書く」と誤認していたことが判明しています。小学校で習う漢字でありながら、なぜこれほどまでに間違えやすい筆順として定着してしまうのでしょうか。
認知心理学および文字構造の観点から分析すると、主に2つの認知的錯覚が働いています。
第1の要因は、「構え(かまえ)」を持つ漢字との混同です。日本語の漢字には「門構え(問・開)」や「国構え(国・園)」のように、「外側の枠を先に書いてから中身を入れる」グループが存在します。脳が無意識のうちに、文字の左から下を覆うしんにょうを「外枠」と認識し、枠から先に作ろうとしてしまう現象です。
第2の要因は、「走(そうにょう)」との筆順ルールの干渉です。「起」や「超」といった漢字に使われる「走(そうにょう)」は、部首である「走」を先に書いてから右上の「己」や「召」を書きます。同じ「にょう(繞)」という分類に属しながら、部首によって『先書き』と『後書き』が正反対に分かれる構造が、学習者の記憶に混乱を生じさせている決定的な原因です。