一見すると強いラー油の香りが蕎麦の繊細な風味を完全に打ち消してしまうように思える。しかし、食品科学の観点から見ると事態は真逆だ。蕎麦に含まれる主な香り成分である2-エチル-3,5-ジメチルピラジンなどは、水よりも油に溶け出しやすい性質(脂溶性)を持っている。
つまり、適度な植物油脂であるラー油がつゆに加わることで、蕎麦の香気成分が油膜に閉じ込められ、口に含んだ瞬間に鼻腔へと一気に広がる現象が起きる。さらに、唐辛子のカプサイシンが舌の痛覚を刺激することで味覚が過敏になり、ベースにある出汁の旨味や醤油のコクをより強く知覚できるようになるのだ。邪道に見えた組み合わせは、実は理にかなった味覚の相乗効果を生み出していた。