『異類婚姻譚』のあらすじは、専業主婦の「サン」が夫の顔の変化に違和感を覚える日常の些細な瞬間から始まります。何事にも執着がなく、ただただ無気力に日々をやり過ごす夫の顔立ちや生態が、日を追うごとに自分自身と酷似し、果てには得体の知れない軟体動物や異形のものへと変質していく感覚にサンは囚われていきます。
古来の説話にある「人間と異類が結婚する物語」を下敷きにしながら、描かれるのは現代の閉塞した家庭環境です。夫の世話に追われ、他者と深く交わることを拒みながらも、お互いをじわじわと侵食し合っていく夫婦の姿は、滑稽でありながら背筋が凍るほどのリアリティを放ちます。
誰かと暮らすことで自己が薄まり、相手の嫌な部分と自分の輪郭が溶け合っていく恐怖――。本谷氏は日常の些事の中に潜むグロテスクな真実を、軽妙洒脱なユーモアと洗練された文体で見事に描き切りました。