宇部市の西岐波海岸を訪れると、沖合約1キロの海面に突き出た2本の巨大な円筒形構造物が目を引きます。これは炭鉱内に空気を送り込み、有毒ガスを排出するための「ピーヤ」と呼ばれる排気筒です。
かつては近代産業遺産として無機質に眺められていたピーヤですが、現在では朝鮮人強制連行犠牲者の無念と、戦時下の過酷な労働実態を今に伝える沈黙のモニュメントとして認知されています。干潮時にはその姿をより生々しく海上に現し、満潮時には波間に洗われるこの構造物は、事故当時に坑道内で何が起きていたのかを現在に問いかけ続けています。
地元では、ピーヤを単なる事故の跡地としてではなく、過酷な歴史的事実を後世に継承するための平和学習・人権教育の拠点として位置づける動きが広がっています。海上に残された唯一の遺構は、海底に沈む183名の存在を消し去らせないための「記憶の楔」となっています。