京王井の頭線の渋谷駅から電車に乗り込むと、列車はすぐに暗いトンネルへと吸い込まれる。そのトンネルを出た瞬間に到着するのが神泉駅だ。わずか数秒の暗闇を抜けることで、若者と観光客で溢れかえる大歓楽街から、落ち着いた大人の住宅・商業混在エリアへと世界が一変する。
この物理的な「トンネルによる遮断」こそが、神泉のアイデンティティを守ってきた最大要因だ。渋谷駅周辺の巨大複合ビル群がどれほど拡張しようとも、神泉の地形的な急坂と入り組んだ路地は、過度な大型商業開発を自然と阻んできた。結果として、個人オーナーがこだわり抜いた店舗や、個人のスケール感を大切にするコミュニティがこの地に残り続けることになったのだ。