本作の物語は、どこにでもいるごく普通の穏やかな母親が、スマートフォンの普及とSNSの利用をきっかけに少しずつ変貌していく様子から始まります。当初は健康志向や自然食品へのこだわりといった、ごく些細な関心事でした。しかし、動画プラットフォームの関連動画を次々と視聴するうちに、「大手製薬会社による人口削減計画」や「影の政府(ディープステート)」といった過激な陰謀論へと急速に傾倒していきます。
主人公である子どもは、当初は冗談交じりに聞き流していました。しかし事態は急速に悪化します。母親は家中を高額な波動グッズや怪しげな浄水器で埋め尽くし、家族の食事から添加物を過剰に排除するだけでなく、家族や親戚、近隣住民にまで自らの信じる「世界の真実」を執拗に布教し始めるのです。
科学的根拠に基づいた説得を試みれば試みるほど、母親は「あなたたちも洗脳されている」「目覚めていない可哀想な人たち」と反発し、孤立を深めていきます。家族団らんの場は毎日のように口論と怒号に変わり、かつて愛してくれた優しい母の面影は完全に失われていきました。