一方、TBS系日曜劇場で放送されたドラマ版では、隆太の存在は完全にカットされ、半沢家は「子供のいない夫婦2人暮らし」の設定に変更されました。メガヒット作の根幹を支えたこの大胆なアレンジには、主に3つの明確な制作上の理由が存在します。
第一の理由は、ドラマ本編のスピード感とサスペンス性の極大化です。ドラマ版『半沢直樹』の最大の特徴は、歌舞伎役者や実力派俳優陣の顔芸が火花を散らす濃密な会話劇と、息もつかせぬ倍返し劇のテンポ感でした。もし隆太を登場させると、幼稚園の送り迎えや学校行事、子供を介した社宅トラブルといったホームドラマ的要素を盛り込む必要が生じます。全10話という限られた尺の中で銀行内部の不正暴きに尺を集中させるため、育児にまつわるエピソードを削ぎ落とす判断が下されました。
第二に、堺雅人と上戸彩が演じる夫婦関係の純度を高める意図が挙げられます。子供を介さない2人だけの空間にすることで、花は「母」ではなく「妻」として直樹と真っ向から向き合うことができます。仕事で極限まで張り詰めた直樹が唯一素の表情を見せられる場所として家庭を機能させるため、2人の濃密な掛け合いにフォーカスする構成が選ばれました。
第三に、子役キャストのキャスティングや撮影スケジュールの最適化です。長時間の緊迫したナイトシーンや急なロケが多い制作現場において、未成年の子役をレギュラー配置することはスケジュール面・演出面で大きな制約を伴います。大人の俳優同士の濃密な演技合戦に全力を注ぐためにも、子供を登場させない選択は極めて合理的だったといえます。