コンゴ民主共和国のサッカー史を語る上で避けて通れないのが、「旧ザイール代表」時代の光と影です。
1968年(コンゴ・キンシャサ時代)と1974年にアフリカネーションズカップを制覇したチームは、1974年の西ドイツW杯にサハラ以南のアフリカ諸国として史上初めて出場を果たしました。しかし、当時の独裁者モブツ・セセ・セコ大統領による政治的介入と、選手への報奨金未払い問題がチームを揺るがします。ブラジル戦で見られた「相手フリーキックの笛が鳴る前に壁から飛び出してボールを蹴り飛ばした」ムウェプ・イルンガのプレーは、長年「ルールを知らない珍プレー」と誤認されてきましたが、実際は「これ以上失点したら家族の命はない」という独裁政権からの脅迫と絶望的な抗議の中で起きた悲痛な行動であったことが、後年の当事者インタビューによって明かされています。
こうした歴史的トラウマを乗り越え、国内ではルブンバシを拠点とする「TPマゼンベ」がCAFチャンピオンズリーグを5度制し、2010年のクラブW杯で南米王者インテルナシオナルを破って準優勝を飾るなど、独自のフットボール文化を脈々と受け継いできました。現在の代表チームがピッチで見せる不屈のメンタリティは、こうした波乱万丈の歴史の上に築かれたアイデンティティそのものなのです。