「水曜日のアリス」の歴史は、2013年10月23日に名古屋・大須の地に誕生した1号店(大須本店)から始まりました。企画・運営を手掛けたのは、女性向けプチプライス雑貨店などを展開していた株式会社ビルジャンです。大人がかがんでやっと通れる「高さ1メートルほどの小さな扉」をくぐると、そこには白と黒のモノトーンで統一された「お茶会の間」や、赤と黒のゴシック調が印象的な「赤の女王の間」が広がり、訪れた人々を一瞬でルイス・キャロルの童話世界へと誘いました。
オープン直後からテレビ取材が殺到し、週末には最大150人以上の大行列が発生。入場制限のための整理券が午前中で配布終了となる社会現象を記録しました。その後、東京(原宿)、大阪(心斎橋)、福岡へと全国展開を果たし、ブランドの旗艦店としての役割を果たし続けました。
しかし、オープンから約7年が経過した2026年9月27日、名古屋店は惜しまれつつその歴史に幕を下ろしました。ファンの間では「なぜ発祥の地である本店が?」と驚きの声が上がりましたが、取材と当時の公式発表を検証すると、以下の3つの構造的な要因が浮かび上がってきます。
第一に、テナント賃貸借契約の満了です。大須商店街という観光地の中心部に位置する物件において、一定の契約サイクルを迎えたことが直接的な契機となりました。第二に、2026年初頭から直撃した新型コロナウイルス感染症の影響です。インバウンド需要の消滅や国内観光客の激減、さらには「密閉された狭い空間で世界観を体験する」という店舗設計そのものが、当時の感染防止ガイドラインと真っ向から衝突したことが大きな打撃となりました。
そして第三の決定打となったのが、ビジネスモデルの構造改革です。常設店舗の維持管理コストを抑え、需要のある都市や大型商業施設へ機動的に出店する「期間限定ポップアップストア」および「公式オンライン通販」への事業転換が進められた結果、名古屋本店は発展的解消という形でその役目を終えることとなりました。