理屈を理解したところで、裁判実務でどのような事案が該当するのか、観念的競合 具体例を紐解いてみましょう。代表的なケースには次のようなものがあります。
- 1発の銃弾や1個の爆弾による殺傷:1つの引き金を引いて発射された銃弾が1人目を貫通して後方にいた2人目にも命中し、2人を死傷させた場合。動作としては1回の射撃であるため、2件の殺人罪(または殺人未遂罪)は観念的競合となります。
- 1回の交通事故による複数人の死傷:過失によって自動車を電柱に衝突させ、同乗していた友人2名に怪我を負わせた場合。自動車運転処罰法における過失運転致傷罪が被害者の数(2個)だけ成立しますが、運転行為が単一であるため観念的競合として処理されます。
- 公務員に対する1回の暴行:職務質問をしてきた警察官の胸元を力任せに殴り倒した場合。1回の殴打という身体的動作により、国の公務を妨害した「公務執行妨害罪」と、警察官個人の身体を傷つけた「傷害罪」の2つが成立し、観念的競合となります。
ここで裁判所が頭を悩ませてきたのが、「どこまでを1個の行為と認めるか」という行為の単一性の限界です。観念的競合 判例の歴史において極めて重要な基準を示したのが、最高裁昭和49年5月29日決定などの一連の裁判例です。
判例は、行為の単一性について「法的評価を離れた自然的な観察のもとで、1個の行為と認められるか否か」を重視しています。例えば、無免許で酒気帯び運転をして人身事故を起こした事案において、無免許運転と過失運転致死傷罪が観念的競合になるのか、それとも併合罪(別個の行為)になるのかという点です。最高裁は、単に「同じ時間帯に車を運転していた」という外形的一致だけでは足りず、事故を起こした危険な運転行為そのものと、道路交通法違反行為との実質的な重なり合いを個別具体的に評価し、一部を観念的競合、一部を併合罪として切り分けました。