広く流布している誤解の一つに、彼が『不思議の国のアリス』のキャラクターであるという思い込みがあります。白ウサギやチェシャ猫、帽子屋たちと並んで語られがちですが、ハンプティ・ダンプティが姿を現すのは続編『鏡の国のアリス』の第6章です。
『鏡の国のアリス』のあらすじ全体は、全体がチェスゲームの進行になぞらえられており、アリスは白の歩兵(ポーン)として8列目のマス(女王の座)を目指して鏡の中の世界を進みます。その道中で出会うハンプティ・ダンプティは、自らを「巨大な知性を持つ存在」と信じ込み、極めて高圧的な態度でアリスを迎えます。
この二人の対話において、文学史に残る決定的な名言が飛び出します。単語の意味を自分勝手に都合よく定義して語るハンプティ・ダンプティに対し、アリスが「一つの言葉にそんなにたくさんの意味を持たせられるのかしら」と疑問を投げかけた際のやり取りです。
「私が言葉を使うとき、その言葉は私が選んだ通りの意味を持つのだ。それ以上でもそれ以下でもない」と豪語する彼に対し、アリスは「問題は、あなたが言葉にいろんな意味を持たせることができるかどうかです」と反論します。そこでハンプティ・ダンプティは言い放ちます。
「問題は、どちらが主人になるかということだ。それだけのことさ」
このセリフは、言語の意味は社会的な合意によって決まるのか、それとも言葉を使う者の権力によって恣意的に規定されるのかという、現代の言語哲学や記号論にも通じる深遠な問いを突きつけています。また、年に1度しかない誕生日よりも、年に364回もある「非誕生日(誕生不記念日=un-birthday)」を祝う方が合理的だと主張する場面など、論理の飛躍と数学者ルイス・キャロルの言語遊戯が遺憾なく発揮されています。