膠着した昭和最大の謎が再び動き出したのは、時効成立から数十年後のことです。ノンフィクション作家の柴田哲孝氏は、実家の片付けの最中に大叔父・柴田吉三郎が残した古い手帳や写真、名刺などの遺品を発見します。そこには、戦後の東京・日本橋室町のビルに本拠を置いていた謎の企業「亜細亜産業」の専務という肩書が記されていました。
亜細亜産業とは、戦時中に陸軍参謀本部直属の秘密機関として物資調達や特殊工作を行っていた残党が集結した組織でした。代表を務めていたのは、元陸軍軍人で特務機関の幹部だった矢板玄(やいた・はじめ)。彼らは戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の諜報組織と密接に結びつき、莫大な隠退蔵物資の処分や特殊工作の実行部隊として暗躍していたのです。
親族の聞き取りを進める中で、柴田氏は驚愕の証言に直面します。事件当日、大叔父が下山総裁の失踪現場近くに出没していた事実や、関係者が下山事件を「自分たちの仕事」として語っていた痕跡が次々と浮かび上がりました。柴田氏が著した『下山事件 最後の証言』は、身内から犯罪実行者の影を暴き出すという、類を見ない覚悟と執念によって執筆されました。