白石監督の名を一躍全国に知らしめた金字塔が、2013年公開の映画『凶悪』です。この作品のベースとなったのは、雑誌『新潮45』のスクープから発覚した「上申書殺人事件」でした。獄中の死刑囚が告発した「先生」と呼ばれる首謀者による保険金殺人劇を、ピエール瀧とリリー・フランキーが怪演。告発に奔走する記者(山田孝之)が徐々に狂気へと呑まれていく心理描写は、観客に「正義と悪の境界線」を痛烈に突きつけました。
事件の単なる再現にとどまらず、取材記者自身の家庭の崩壊や内なる狂気までをも容赦なく暴き立てた構成こそが、白石映画のリアリズムの真骨頂です。映画の公開後、実際の事件現場やノンフィクション書籍への関心も再燃するなど、社会的な波紋を広げました。
続いて2016年に世へ放たれた『日本で一番悪い奴ら』では、2002年に起きた北海道警察の不祥事「稲葉事件」を映像化。綾野剛演じる警部補が、裏社会の「S(スパイ)」を操りながら銃器摘発のノルマに追われ、自ら覚醒剤密輸や拳銃密売に手を染めていく様を、痛快かつ破滅的なテンポで描き出しました。
組織の論理に絡め取られ、悪事を「点数を稼ぐための正義」と信じ込んで転落していく男の姿は、警察組織の腐敗のみならず、現代の組織社会で生きるあらゆる人々に通じる普遍的な悲喜劇として高い評価を獲得しています。