四半世紀以上にわたって家族以上の濃密な時間を共有した『男はつらいよ』の撮影チームであっても、その敷居を跨ぐことは決して許されなかった。妹・さくら役を演じた倍賞千恵子、そして数々の名作を共に作り上げた山田洋次監督でさえ、彼の自宅を訪れた経験は一度もないという。
「渥美さんは、寅さんという全国民の夢を壊さないために生きていた」――当時のスタッフはそう振り返る。日常の生々しさや生活感を一切表に出さないこと。それが喜劇映画の巨匠としてファンに夢を届け続けるための、妥協なきプロフェッショナリズムだった。どれほど親しい仲になろうとも一線を引く、孤高の自己プロデュースが貫かれていた。