映画や原作に触れた多くの人が抱く最大の疑問が、「主人公・立花喜久雄のモデルは誰なのか」という点です。結論から言えば、喜久雄という人物そのものは完全な架空のキャラクターであり、特定の人物の生涯をそのままトレースした実話ではありません。しかし、その造形には複数の偉大な歌舞伎役者のエッセンスが凝縮されています。
なかでも最も有力な元ネタ・イメージソースとして語られるのが、現代の歌舞伎界で最高峰の女形と称される人間国宝・五代目 坂東玉三郎氏です。
坂東玉三郎氏は歌舞伎の家柄(梨園)の生まれではなく、小児麻痺のリハビリとして始めた舞踊をきっかけに名門・守田勘弥に見出されて養子入りした経歴を持ちます。「血筋がすべて」とされる閉鎖的な梨園において、外部から天才的な美貌とストイックな修練によって頂点へ登りつめた軌跡は、極道の子から女形の頂点を目指す喜久雄の宿命と強く重なり合います。
作中で描かれる圧倒的な舞台上の美しさ、舞踊に対する妥協のない求道心、そして観客を狂乱させるカリスマ性は、まさに当代の坂東玉三郎氏が放つオーラそのものをモデルケースにしていると見て間違いありません。