インターネット上の掲示板やSNSでは、難読駅や珍名駅にまつわる様々な都市伝説や俗説がまことしやかに語り継がれています。しかし、郷土史資料や言語学の一次史料を精査すると、ネット上で信じられている言説の多くが後世の創作や語源俗解(民間語源)であることが浮き彫りになります。
代表的な誤解の一つが、及位駅に対する「昔、村人が温泉の女湯を覗き見した罪で役人に位を剥奪されそうになったから」という下世話な逸話です。これは昭和期の旅情番組などで面白おかしく紹介された俗説に過ぎず、前述した通り、正しくは山形県と秋田県の県境に位置する院内峠周辺の山岳修験にまつわる崇高な修行記録に基づいています。
また、喜連瓜破駅の「瓜破」についても、「かつて村人同士が境界争いで瓜を投げ合って割れた」という争議説がネット上で散見されますが、これも史実ではありません。平野区内の寺院に残る縁起書によれば、弘法大師がこの地で仏舎利を感得した際、瓜を割って薬師如来に捧げたという神聖な信仰譚が原点です。
地名は時代を下るにつれて、音の聞き間違い(音素の置換)や、奈良時代に出された「好字二字令」(諸国の郡郷名には縁起の良い二文字の漢字を用いよという勅命)によって、原義と乖離した漢字が当てはめられてきました。ネット上の奇抜なストーリーに惑わされず、歴史的公文書や古地図から元の地形・生活様式を読み解く姿勢が不可欠です。