松田陣平の死を語るうえで、読者の胸を最も抉るのが、殉職の直前に佐藤美和子刑事へ送信された最期のメールの存在です。捜査一課に配属されてから殉職するまで、彼が捜査三係に在籍したのはわずか6日間に過ぎませんでした。しかし、その短い時間の中で、二人は刑事として、そして人として強烈に魂を交差させていました。
爆発まで残り数秒という極限状況下で、松田が打ち込んだメッセージの末尾には、あまりにも無骨で、あまりにも切ない追伸が添えられていました。
「米花中央病院だ…もう一つの爆破場所は…探してくれよな…」
「P.S. あんたのこと、割と好きだったぜ」
このメールを受信した佐藤刑事は、激しい慟哭とともに彼の死を受け止めざるを得なくなりました。以後3年間、彼女はこのメールを携帯電話の受信フォルダから消去できず、11月7日が近づくたびに自責の念と喪失感に苛まれ続けることになります。佐藤刑事にとって松田は、ただ憧れた先輩刑事という枠を超え、「自分が死神を引き寄せてしまったのではないか」という重篤なサバイバーズ・ギルト(生き残りへの罪悪感)を植え付けた存在となってしまったのです。
この呪縛が解かれたのは、松田の死から3年後、コナンと高木刑事が同じ爆弾魔によって東都タワーに閉じ込められた事件でした。松田と同じく「市民のために爆弾のヒントを待つ」という自己犠牲の道を選びかけた高木刑事に対し、佐藤刑事は過去の悪夢を重ね合わせます。しかし、生還した高木刑事の「ダメですよ佐藤さん、忘れちゃ…それが大切な思い出なら忘れちゃダメです。人は死んだら、人の思い出の中でしか生きられないんですから…」という言葉によって、佐藤刑事はようやく松田のメールを「消せない呪い」から「胸に刻むべき誇り高き記憶」へと昇華させることができたのです。