インターネット上の言説では、「ファミコンのカタカナ制限によって『シタイ』が使えず『しかばね』になったのではないか」という俗説が散見されます。しかし、現存する当時の開発資料や文字コード表を検証すると、この説には明確な誤解が含まれていることが分かります。
初代ドラクエで使用できたカタカナは、容量削減のためにあらかじめ厳選された20文字(主に呪文名やモンスター名、アイテム名に使用)に限られていました。しかし、「したい」も「しかばね」も平仮名で記述可能であり、文字種の制限が直接の理由ではありません。
真の要因は、堀井雄二氏の「残酷表現のオブラート化」と「客観的事実の提示」という美意識にあります。「死体」という名詞は法医学的・現実的すぎて生々しい生活感を帯びてしまいます。一方、「しかばね(屍)」は古事記や古典文学、ファンタジーの文脈に連なる叙事詩的な重みを持っています。「死んでいる」という主観的判断ではなく、「そこにあるのは、ただのしかばねという物体である」という突き放した三人称視点こそが、テレビ画面の向こう側の少年にとっての「冒険の厳しさ」を物語る装置となったのです。