日本文学史に燦然と輝く歌集『一握の砂』(1910年刊行)は、まさにこうした泥沼の借金生活のプレッシャーの中で産み落とされました。啄木がこの歌集を出版した直接の動機は、差し迫った借金返済と当座の生活費の工面でした。
「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ」
「一度でも我に頭を下げさせし 人みな死ねと思ひてしこと」
歌集に収められた短歌の数々は、自らの放蕩が生み出した自作自演の貧困、周囲への嫉妬、借りた金で首が回らない自己嫌悪など、極限状態の生々しい感情が原動力となっています。倫理的には完全に破綻していながら、その弱さや醜悪さを隠さず芸術へ昇華させたからこそ、『一握の砂』は時代を超えて人々の胸を打つ傑作となったという痛烈な皮肉が存在します。