音楽業界の歴史を紐解くと、突出した名曲がシングル表題曲としてカットされなかった背景には、大きく分けて3つのシングル未収録理由が確認できます。
1つ目は、「プロモーションの機能性」と「音楽的純度」の乖離です。シングル表題曲はラジオのエアプレイやテレビ番組のタイアップ枠、街頭ビジョンでの瞬間的なアピールが求められます。そのため、イントロの長さ、テンポ感(BPM)、歌詞の分かりやすさにおいて厳格なマーケティング要件が課されるケースが少なくありません。一方で、アーティストが自身の極私的な感情や前衛的なサウンドスケープを表現しようとした場合、あえて商業的ノルマから切り離されたアルバムの深層やB面名曲一覧の中に配置することが制作上の最良の選択となります。
2つ目は、アルバムという「1つの総合芸術」としての完成度維持です。かつてある著名音楽プロデューサーが自著の手記で「本当に強い曲をすべてシングルで切ってしまうと、アルバムを通しで聴いたときの感動の起伏が失われる」と告白したように、アルバムの中核を成すキラーチューンを意図的に未シングルのまま残す戦略は、古くから名盤制作の鉄則とされてきました。
3つ目は、「フィジカル(CD)を購入してくれるコアファンへの贈り物」という作家側の美学です。特に90年代から2000年代にかけての邦楽ロックシーンでは、シングル盤を手に取ってくれたリスナーに対し、カップリング曲神曲おすすめとして語り継がれるほどの濃密な音源を裏面に忍ばせることが、アーティストとファンの間の暗黙の信頼関係を築いていました。