ドラマでは夫婦の絆が美しく描かれていたが、実際の史実における夫・吉本吉兵衛(泰三)は、家業の荒物問屋を疎かにして芸事や道楽に没頭し、多額の借金を抱える典型的な道楽息子だった。破産寸前に追い込まれた末、せい自身が「道楽を商売に替える」という大胆な逆転の発想で1912年に大阪・天満の弱小寄席「第二文芸館」を買い取ったことが、すべての始まりである。
さらに30代半ばで夫が急死すると、せいは幼い子供たちを抱えながら、若くして単身で興行の世界の頂点を目指すことになる。当時の大阪演芸界に君臨していた老舗勢力からの執拗な嫌がらせや引き抜き工作、暴力団まがいの圧力に対し、彼女は一歩も引かずに立ち向かった。朝ドラの愛らしいヒロイン像の裏には、冷徹なまでの度胸と粘り強さを備えた一人のビジネスパーソンの壮絶な戦いがあったのだ。