ボーカルの難易度を測るうえで、まず直視すべきは客観的な数値データです。『僕のこと』の音域を解析すると、ポップスとしては異例のレンジが設定されていることが浮き彫りになります。
楽曲全体の音域はmid1F#(F#3)からhiF(F5)までの約2オクターブ1音。この数値だけを見ると「2オクターブ強なら練習次第で届くのでは」と錯覚しがちですが、問題はその配置と発声様式にあります。
楽曲のスタートを切るAメロでは、男声の落ち着いた低音域である僕のこと最低音=mid1F#が静かに響きます。「僕とあり続ける」などのフレーズに配置されたこの音は、息漏れの多い発声だと不明瞭になり、芯のあるチェストボイスで支えなければ歌詞の輪郭が消えてしまいます。一方でサビに突入した瞬間、レンジは一気にトップギアへと跳ね上がります。
サビで要求される僕のこと地声最高音=hiC#(C#5)は、成人男性の平均的な換声点(mid2E〜G付近)を軽々と飛び越えた領域です。さらにフェイクや間奏部、感情が昂るブリッジパートでは、僕のこと裏声最高音=hiF(F5)というソプラノ領域に迫るファルセットが要求されます。低音の安定感から超高音の飛翔まで、1曲の中で一切の妥協を許さない構成が組まれています。