物語の舞台に立ち込めるのは、ドラマチックな大惨事ではなく、湿り気を帯びた日常の延長線上にある静かな崩壊だ。山本直樹が築き上げたこのディストピアサスペンスは、派手なアクションで恐怖を煽る一般的なパニックものとは一線を画す。淡々とした筆致で描かれるのは、社会の倫理が崩れ去り、人々が自らの欲望や生存本能と向き合ざるを得なくなる極限状態である。
青年漫画というジャンルの限界を押し広げた本作は、表現のタブーに挑み続け、日本の漫画業界に測り知れない影響を与えた。登場人物たちがみせる滑稽なまでの生々しさと、その背景に広がる圧倒的な虚無感。講談社をはじめとする出版文化が育んできた表現の深みが、ここには凝縮されている。