なぜ義勇は周囲と距離を置き、「お前たちとは違う」という態度をとってしまったのか。その深層には、冨岡義勇の過去に刻まれた耐え難い喪失体験と、深刻な心理的トラウマが存在します。
義勇はかつて、祝言を翌日に控えた実の姉・蔦子(つたこ)を鬼に殺害されています。姉は幼い義勇を隠し、自らが身代わりとなって命を落としました。親族から「気が狂った」とみなされ寺へ送られる途中で脱走し、行き倒れかけていたところを育手である鱗滝左近次に救われます。
そこで出会ったのが、同じ13歳で天涯孤独の身であった錆兎(さびと)でした。二人は寝食を共にし、固い友情を結びます。しかし、鬼殺隊の最終選別において、錆兎は藤襲山にいた鬼のほぼすべてを単独で討伐しながら、手鬼に敗れて命を落としました。一方の義勇は、最初に襲われた際に負傷し、錆兎に助けられたあと意識を失っていただけで、鬼を1体も倒すことなく生き残ってしまったのです。
義勇が身に纏う特徴的な「半々羽織」は、右半分が親友・錆兎の着物の形見であり、左半分が姉・蔦子の形見です。彼は常に二人の魂を背負いながら戦っていました。
「自分は本来、生き残るべき人間ではなかった」「選別を突破していない自分が水柱の席に座っていること自体が間違いだ」という強烈なサバイバーズ・ギルト(生残者罪責感)と、己の能力を正当に認められないインポスター感情。彼が「お前たちとは違う」と口にした真意は、「柱として立派なお前たちと、紛い物の俺が同列に並ぶ資格はない」という痛切な劣等感だったのです。