工学的なアプローチから中世ヨーロッパ拷問器具を検証すると、苦悩の梨が拷問具として使えなかった決定的な欠陥が浮き彫りになります。金属加工や機械力学の専門家が指摘する最大の盲点は、推進トルクの不足と強度の脆さです。
現存する16世紀末から17世紀のオリジナルの梨型器具は、細かなネジ山が手作業で切られており、素材も純度の低い真鍮や軟鉄が使われています。もし仮に、成人の強靭な筋肉組織や括約筋が存在する体腔内でこのネジを回転させようとした場合、強い外圧に対抗できず、ネジ山が内部で舐めて空回りするか、薄い花弁の付け根が金属疲労であっけなく破断します。人間の組織を物理的に引き裂くほどの強度とテコの原理は、当時の小径ネジ機構では絶対に生み出せません。
では、当時実在した「梨型の器具」の本来の正体は何だったのでしょうか。1639年にフランスで出版された泥棒の手記『L'Inventaire général de l'histoire des voleurs』には、強盗の頭目ゴゴ・シニョールが開発した「喉の梨(poire d'angoisse)」に関する言及があります。そこには拷問具としてではなく、被害者の口に押し込んで叫び声を塞ぐ特殊な猿ぐつわとして記されていました。鍵を差し込んで広げることで口から滑り落ちなくする強盗用の防犯突破具、あるいは医療現場で使われた子宮脱の治療用ペッサリーや開口器具、さらには靴の幅を広げるストレッチャーが、後世のコレクション収集家の手で「おぞましい拷問具」へとすり替えられたのが、苦悩の梨 真相なのです。