「太麺は単に茹で時間が長いだけの麺ではない」と語るのは、日本のイタリア料理界を黎明期から牽引し続ける名匠、落合務シェフだ。落合氏は長年の厨房経験から、太麺が持つデンプン質のポテンシャルをこう解説する。「麺が太ければ太いほど、茹で湯の中に溶け出すデンプンの量も多くなる。このデンプンをソースに正しく戻してやることで、油分と水分が完璧に手をつなぎ、家庭でもプロ並みの濃厚なとろみが生まれるのです」。
一方、Netflixのドキュメンタリー『シェフのテーブル(Chef's Table)』で世界中の料理人を驚嘆させたイタリア・モデナの巨匠マッシモ・ボットゥーラ氏も、伝統の再構築において麺の存在感を極めて重要視している。ボットゥーラ氏はインタビューでこう指摘している。「パスタとはソースを運ぶだけの器ではない。小麦の甘みと大地の力強さが、ソースの酸味や脂のコクと口の中で対等にぶつかり合って初めて、一皿の料理として完成する」。
東西の巨匠が異口同音に語るのは、麺そのものが持つ強烈な自己主張だ。太麺だからこそ受け止められる重厚なソースがあり、その両者が完璧に調和した瞬間、皿の上で奇跡のような一体感が生まれる。