大ヒットドラマの影響で、解剖医は「スタイリッシュな研究室で鮮やかに事件の謎を解く名探偵」のようなイメージを持たれがちです。しかし、実際の法医学者の仕事内容は、想像を絶する過酷さに満ちています。
運び込まれる遺体は、亡くなってすぐの綺麗な状態ばかりではありません。夏場の孤独死による高度腐敗遺体、火災による炭化遺体、水難事故による水死体、さらには痛ましい児童虐待の痕跡が残る遺体など、五感を激しく刺激する現場が日常です。強烈な腐敗臭の中で何時間もメスを握り、骨や臓器を細部まで観察・摘出する作業は、強靭な体力だけでなく並大抵ではないメンタルのタフさが求められます。
また、ドラマのように数十分で毒物分析の結果が出ることは稀です。地道な薬毒物検査や組織標本の顕微鏡観察、警察への鑑定書作成など、膨大なデスクワークと精密検査に追われます。突発的な解剖要請が入れば休日や深夜でも大学へ駆けつける必要があり、「激務で心身ともに削られる」という現場の悲鳴は決して誇張ではありません。